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東京高等裁判所 平成5年(う)865号 判決 1995年3月29日

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告人四名の連帯負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人四名がそれぞれ提出した各控訴趣意書及び弁護人向井千景、同荒木昭彦、同和久田修が連名で提出した控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官吉野荘英作成名義の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討する。

第一  弁護人の控訴趣意のうち、新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法の違憲をいう論旨について(趣意書第二、最終弁論要旨第二)

一  論旨を要約すると、以下のとおりである。

1  原判決は、本件封鎖、除去処分の根拠とされた新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(以下「緊急措置法」という。)三条六項、八項の規定は合憲であるとした。しかし、(一)右各条項は、いずれも同条一項に基づく使用禁止命令が発せられていることを前提として、一定の要件のもとに運輸大臣が建築物その他の工作物の封鎖、除去の処分をすることを認めているものであるが、そもそも、封鎖、除去処分の前提として使用禁止命令を発することを認めた同条一項の規定は憲法二一条一項に違反する。すなわち、緊急措置法三条一項は、多数の暴力主義的破壊活動者の集合等の用に供されるおそれがあると認めるときに工作物の使用を禁止することを命ずることかできるとしているが、文言か著しく漠然としており、要件の有無について判断権者たる行政庁の判断を拘束する基準を設けているとはいえず、集会の自由に対する過度に広範な規制といわざるを得ない。(二)そして、これを前提とする封鎖、除去処分においては、使用禁止命令の場合と異なり一般国民の当該工作物における集会の自由が一切剥奪されることになるのであつて、他の人権との衝突を生じない屋内における集会の自由は本来規制の対象となり得ないことも考えると、緊急措置法三条六項、八項は憲法二一条一項に違反する。原判決は、損失補償、行政訴訟等の事後救済手続があることも右規定が合憲であることの根拠としているが、憲法の人権体系上優越的地位にある表現の自由、集会の自由に対しては事前規制は原則として許されないのであるから、事後にこれらの手続があることをもって合憲の根拠とすることはできない。(三)次に、封鎖、除去処分においては、国民の財産の使用に対する制限にとどまらす、国民の財産権そのものの剥奪を伴うのであるから、著しく漠然とした要件の下で国民の財産権の剥奪を認める緊急措置法三条六項、八項は憲法二九条一項、二項に違反する。(四)さらに、緊急措置法には、封鎖、除去処分を受ける者に対する事前の告知、聴聞の機会を保障する手続が全く定められていないが、封鎖、除去処分は、一方で、広く一般国民の集会の自由を剥奪し、かつ、国民の財産権そのものを剥奪する重大な不利益処分であり、他方で、その要件は著しく漠然としており、告知、聴聞の機会を保障する必要性は極めて高い。そして、封鎖、除去の段階的手続を経る上で、告知、聴聞の機会を与えるいとまがないほどの緊急の必要性は認められないのであるから、この手続を欠く緊急措置法三条六項、八項の各規定は、憲法三一条に違反する。

2  ところで、(一)最高裁大法廷は、いわゆる利益較量論により緊急措置法三条一項一号は憲法二一条一項に違反しないとしたが(平成四年七月一日判決。以下「大法廷判決」ともいう。)、集会の自由の重要性からすれば、合憲性の審査の方法としては、法律による規制が立法目的を達成するために他に選び得る手段がない必要最小限度のものでなければならないという厳格な基準(LRAの基準)を用いるべきであって、大法廷判決が利益較量論を用いたこと自体がまず誤りである。(二)また、仮に利益較量論を採ったとしても、大法廷判決においては、規制によって利益が生じることの結果として緊急措置法の立法目的が図られるとの因果関係が明らかにされていないから、利益較量の具体的適用も誤っている。(三)さらに、大法廷判決は、緊急措置法二条二項にいう「暴力主義的破壊活動等を行い、又は行うおそれがあると認められる者」とは、「暴力主義的破壊活動を現に行つている者又はこれを行う蓋然性の高い者」の意味に、同法三条一項にいう「その工作物が次の各号に掲げる用に現に供され、又は供されるおそれがあると認めるとき」とは、「その工作物が次の各号に掲げる用に現に供され、又は供される蓋然性が高いと認めるとき」の意味に解すべきであるとの解釈を示したが、これによつてもなお内容が抽象的であつて、判断権者たる行政庁の判断を拘束するのに十分とはいえず、過度に広範な規制となることを防止できるものではない。(四)また、緊急措置法による工作物の使用禁止は、集合そのものを規制するものであり、集会の自由に対する事前の規制であるが、大法廷判決は、法律の文言を修正して解釈するだけで、集会の自由に対する事前の規制が合憲化される理由については何も明らかにしていない。(五)さらに、大法廷判決は、使用禁止命令により達成しようとする公益確保の緊急の必要性を重視して、工作物の使用禁止命令を発するのに告知、聴聞の機会を与えなくても憲法三一条に違反しないというが、使用禁止命令を発する段階で告知、聴聞の機会を与えることは十分可能であり、右処分は、その後の封鎖、除去処分という制裁的処分の前提となるものであるから、使用禁止命令の段階で適正手続を行うことは、最低限必要である。(六)また、憲法二九条に適合するとの判示については、憲法二一条について述べたのと同様の問題がある。したがって、大法廷判決の憲法解釈は誤りであり、この大法廷判決の論理をそのまま踏襲した原判決も大法廷判決と同じ誤りを犯している。

3  仮に、大法廷判決の立場を前提としても、右判決はあくまで緊急措置法三条一項一号の使用禁止命令に関するものであって、侵害される人権の性質、程度が全く異なる同条六項、八項の封鎖、除去処分に右判決の論理をそのまま当てはめることはできない。封鎖、除去処分においては、使用禁止命令の場合と異なり、当該工作物における一般国民の集会の自由及び国民の財産権そのものが剥奪されるのであるから、集会の自由、国民の財産権保障について格別の配慮か必要であるし、また事前の告知、聴聞の機会を保障する必要性は高い。したがって、緊急措置法三条一項一号の合憲性に関する大法廷判決を前提としても、同条六項、八項の規定は、憲法二一条一項、二九条一項、二項、三一条に違反する。

4  そうすると、緊急措置法三条六項、八項が合憲であることを前提として被告人らにつき公務執行妨害罪及びその予備罪としての性格を有する兇器準備集合罪の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな憲法の解釈の誤り、法令の解釈、適用の誤りがある。

二  そこで、以下、順次検討する。

1  使用禁止命令の合憲性について

まず、前記一の1(一)の所論についてみるに、緊急措置法三条一項一号は、同法二条三項にいう規制区域内に所在する建築物その他の工作物が多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供され、又は供されるおそれがあると認めるときは、運輸大臣は、当該工作物の所有者等に対し、期限を付して当該工作物をその用に供することを禁止することを命ずることができるとしているが(本件使用禁止命令は、同法三条一項二号、三号とは関係がないので、それらの規定については論及しない。)、この条項が憲法二一条一項、二九条一項、二項及び三一条に違反しないことについては、所論指摘の最高裁判所平成四年七月一日大法廷判決(民集四六巻五号四三七頁)が判示するところであり、当裁判所の見解もこれと同様である。

所論は、大法廷判決を批判し、ます、前記一の2(一)のとおり、大法廷判決が、合憲性判断の方法として、利益較量論を採用したことについて論難している。

しかし、緊急措置法の定める使用禁止の措置は、右にみたとおり、表現の自由、集会の自由(以下「集会の自由」を含めて「表現の自由」という。)を一般的に規制しようとするものではなく、特定の工作物が多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供され、又は供されるおそれがある場合において、当該工作物を右の用に供することの禁止を命ずるものである。ただ、使用禁止命令が発出された場合には、その結果として表現の自由に対する制約がもたらされるが、その制約の内容も、当該特定の工作物における表現の自由にとどまる。そして、使用禁止命令により保護される利益と制限される利益とを比較した場合、両者の較差が顕著であることも考慮すると、大法廷判決が、所論の指摘するような厳格な基準によることなく、利益較量論によって合憲性の審査をしたのは相当と考えられる。

次に、前記一の2(二)の所論についてみると、緊急措置法の立法目的である新東京国際空港(以下「新空港」又は「成田空港」という。)及びその機能に関連する施設の設置及び管理の安全の確保が、新空港周辺に設けられた工作物で多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供され、又は供されるおそれのあるものの使用を禁止する措置をとることによって達成し得ることは、みやすい道理であつて、その間に因果関係ないし合理的関連性がないとはいえない。

また、前記一の2(三)の所論についてみると、大法廷判決のした所論指摘の限定解釈によれば、緊急措置法三条一項一号が過度に広範な規制を行うものとはいえず、要件も不明確とはいえないことは明らかであり、行政庁に対する判断基準としても十分に機能すると考えられる。

さらに、前記一の2(四)の所論についてみると、大法廷判決は、緊急措置法制定の経緯として、空港供用開始の直前に、過激派集団が空港管制塔に侵入してレーダーや送受信機等の航空管制機器類を破壊する等の事件が発生したため、その防止対策を強く迫られて制定された旨の事実を指摘した上、使用禁止命令により保護される利益と制限される利益を対比し、更に暴力主義的破壊活動等を防止し、新空港の設置、管理等の安全を確保することには高度かつ緊急の必要性があるとし、以上を総合して較量すれば、規制区域内において暴力主義的破壊活動者による工作物の使用を禁止する措置をとり得るとすることは、公共の福祉による必要かつ合理的なものであって、憲法二一条一項に違反しないと判示しており、使用禁止命令が発出された場合、その結果としてもたらされる表現の自由の制約が合憲である理由を明らかにしている。

さらにまた、前記一の2(五)の所論についてみるに、行政手続についても憲法三一条の法意が尊重されるべきであるが、大法廷判決が説示するとおり、緊急措置法三条一項一号の使用禁止命令により制限される権利利益の内容、性質、制限の程度と、使用禁止命令により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等、とりわけ後者が、新空港の設置、管理等の安全という国家的、社会経済的、公益的、人道的見地からその確保が極めて強く要請されているものであって、高度かつ緊急の必要性を有するものであることなどを総合較量すると、使用禁止を命ずるに当たり、その相手方に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定がなくても、憲法三一条の法意に反するとはいえないと考えられる。この点は、使用禁止命令を発することが、その後の封鎖、除去処分の前提手続ともなる関係上、特にこの段階で相手方の保護を図る必要があるとの所論の立場に立って検討してみても同様であって、結論に差異はない。使用禁止命令の要件が充足されるような場合には、使用禁止命令それ自体に、緊急措置法一条の目的を達成するため事態に即応した実効ある措置とすべき緊急の必要性が存在するからである。

最後に、前記一の2(六)の所論についてみると、使用禁止命令と憲法二九条一項、二項との適合性に関する大法廷判決の説示が首肯し得ることは、これまで憲法二一条一項との関連で検討してきたところがらして明らかである。

その他、所論に即し逐一検討しても、大法廷判決に対する批判には理由がなく、大法廷判決の趣旨に沿った原判決に憲法解釈の誤り、法令の解釈、適用の誤りは認められない。論旨は理由がない。

2  封鎖、除去処分の合憲性について

まず、前記一の一(二)、(三)及び3の所論についてみるに、封鎖、除去処分の合憲性について検討するに当たっては、緊急措置法三条六項、八項に定める封鎖、除去処分が、いずれも使用禁止命令の履行を確保するための手段として位置付けられていることに留意されなければならない。すなわち、封鎖処分は、運輸大臣において、緊急措置法三条一項の禁止命令にかかる工作物が当該命令に違反して同項各号に掲げる用に供されていると認めるときに限り講ずることのできる措置であり(同条六項)、除去処分は、運輸大臣において、右禁止命令にかかる工作物が当該命令に違反して同項各号に掲げる用に供されている場合に、当該工作物の現在又は既往の使用状況、周辺の状況その他諸般の状況から判断して、暴力主義的破壊活動等にかかわるおそれが著しいと認められ、かつ、他の手段によっては使用禁止命令の履行を確保することができないときてあって、一条の目的を達成するため特に必要があると認められるときに限り、講ずることのできる措置である(同条八項)。このように、封鎖、除去処分は、使用禁止命令に違反する事態が現に発生し、除去処分については、右の点のほか更に厳重な要件が具備されたときにのみ、使用禁止命令の履行を確保するために講ずることのできる措置であり、右の要件は使用禁止命令より表現の自由及び財産権に対する制約が強くなっている分だけ厳重となっており、それら要件の内容も合理的である。また、封鎖、除去処分は、右にみたとおり、使用禁止命令の履行確保を目的とするものであって、表現の自由の規制を目的とするものではなく、ただ、封鎖、除去処分が行われた場合、その結果として表現の自由に対する制約がもたらされるが、その制約の内容も、既に使用禁止命令の出ている当該特定の工作物における表現の自由にとどまる。そして、封鎖、除去処分の前提となるところの、使用禁止命令を定める緊急措置法三条一項が憲法二一条一項、二九条一項、二項に違反しないことは既にみたとおりであり、使用禁止命令により保護される公益が、国家的、社会経済的、公益的、人道的見地から極めて強く要請されるところの、新空港及び航空保安施設等の設置、管理の安全確保、新空港及びその周辺における航空機の航行の安全確保、これに伴う新空港を利用する乗客等の生命、身体の安全の確保であって、とりわけ重要であること、また、封鎖、除去処分の要件はいずれも明確であって、行政庁に恐意的処分を許したり、市民に表現の自由の享受を躊躇させたりするおそれのないこと、その他、緊急措置法が三条一一項ないし一四項、四条等に損失の補償をはじめとする諸規定を置き、行政不服審査、行政訴訟等事後の救済手続が用意されていることも考慮すれば、封鎖、除去処分を定める同法三条六項及び八項も憲法の右各法条に違反するということはできない。

次に、前記一の1(四)及び3の所論についてみるに、封鎖、除去処分は、既にみたとおり、使用禁止命令に違反する事態が現に発生し、除去処分については、右の点のほか更に厳重な要件が具備されたとき、すなわち、前記公益保護の高度かつ緊急の必要性が更に高くなったときにのみ、使用禁止命令の履行確保のために講ずることのできる措置であるから、当該工作物にかかわる表現の自由及び財産権に対する制約が使用禁止命令の場合と比べてより強くなってもやむを得ないと考えられる。また、封鎖、除去処分は、あらかじめ法律において定められている前記のような明確かつ厳重な要件のもとにはじめて講ずることかできる措置であって、それらの要件が充足されるような異常かつ例外的な場合には、緊急措置法一条の目的を達成するため、封鎖、除去処分を事態に即応した実効ある措置とすべき必要性が使用禁止命令の場合より更に高くなっているのである。そうすると、立法者において、封鎖、除去処分をするに当たり、処分を受ける者に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定を置かなかったからといって、これが、立法府の合理的裁量の範囲を超え、憲法に違反するとはいえないと考えられる。したがって、緊急措置法三条六項及び八項の各規定は、憲法三一条にも違反しない。

なお、弁護人は、弁論において、仮に緊急措置法か合憲であったとしても、封鎖、除去処分のように国民に対する重大な不利益処分を行うに当たっては、運用上、当然に憲法三一条の要請する適正手続の法理に基づいてその処分を行うべきであるところ、本件においては、使用禁止命令については使用禁止を記載した看板を掲げ、運輸省職員がハンドマイクでその内容を読み上げる方法で通告したに過ぎず、また封鎖、除去処分については処分当日の朝、運輸省職員が拡声器、横断幕を用いて通告を行ったのみであり、憲法三一条の要請する告知、聴聞の手続要件を満たしているとは到底いえない、と主張している。しかし、緊急措置法が、同法所定の工作物について使用禁止を命じ、又は封鎖、除去の処分をするに当たり、事前の告知、弁解、防御の規定を置かないことか違憲でない以上、所論のいう通告をした程度で、緊急措置法が要求している以上の運用をしなかったからといって、それが憲法三一条に違反するということはできない。

また弁護人は、弁論において、緊急措置法は、昭和五三年三月二六日に起こった空港管制塔占拠事件を契機とし、空港周辺に設けられた団結小屋が右事件の犯人らの出撃基地となっているとの前提のもとに急遽立法された法律であるが、団結小屋が空港の安全に影響するゲリラ活動の基地とされた事実はないのであるから、緊急措置法は、まずその立法動機において認識に誤りがあった上、法務省が立法について慎重な態度をとったことに業を煮やした自民党を中心とする勢力が、政府案による立法を諦め、議員立法の形に切り換えて成立せしめたものであって、立法作業が開始されてから成立するまでの期間も短く、憲法上の問題点等についてほとんど実質的な審議を経ることなく拙速主義のもとに立法化された極めて異常な法律であるとして、その有効性を争っている。しかしながら、法案提出の形式は法律の効力とは関係がなく、立法の動機に関する事実の認識、審議の時間、程度などについては専ら各議院の判断によるのであり、裁判所としては、違憲の廉がない限り、立法の有効性を否定できないのであるから、所論は採用できない。

以上によれば、前記一の4の所論は前提を欠くこととなり、その他、所論に即し逐一検討しても、原判決に憲法解釈の誤り、法令の解釈、適用の誤りは認められない。論旨は理由がない。

第二  弁護人の控訴趣意のうち、本件行政処分が違法であるとする論旨について(趣意書第三、最終弁論要旨第三、第四)

一  本件使用禁止命令の違法性について(趣意書第三の一、最終弁論要旨第三)

論旨は、本件封鎖、除去処分の前提となる本件使用禁止命令は、緊急措置法三条一項一号所定の要件を充足しないまま発出されたものであるから、これを適法と認めた原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈、適用の誤り、事実誤認がある、というものである。

1  原判決挙示の証拠及び当審における事実取調べの結果によると、本件A及び本件使用禁止命令に関して、以下の事実が認められる。

(1) Aは、千葉県成田市a字bc番地上の本館及び東館、同d番地上の北館、そして本館から東方数十メートルの地点にある同e番地上の別館及びこれらに附属する建物、工作物などからなる。本館と東館、北館はそれそれ隣接して建てられており、また、本館と別館の間は細い畑道で結ばれている。これらの建物がある右成田市a字bd番地、c番地、e番地の土地は、新空港の範囲の外側三〇〇〇メートルの線までの区域、すなわち緊急措置法二条三項にいう規制区域内にあり、B電鉄成田空港駅から南へ約四・六キロメートル、成田市消防署三里塚分署から南東へ約二・五キロメートルの地点の農村地帯に存在する。Aの敷地は、Cに所属する地元民らが所有している。

A本館は、により、昭和五二年五月ころ、新空港建設反対運動の成田における現地活動拠点として建設された。そして、その後Dの闘争方針が強化されるに伴い、同派によって、本館の周辺に東館、北館、別館が相次いで建設されていった。建物は、いずれも軽量鉄骨プレハブ造りの二階建て(建坪は、本館が約一九四・五平方メートル、東館が約三二・八五平方メートル、北館が約一六・一二平方メートル)であるが、すべて未登記であり、建築確認申請書の提出もない。

本館、東館及び北館の三棟の建物については、四周を約三メートルくらいの高さの鋼矢板で囲み、その上に有刺鉄線が張り巡らされていた。本館の出入口は、建物西側の県道に面した部分に設けられているが、この一か所しかなく、扉は鉄板製で、入り口の幅は狭く、内側からかんぬきがかけられる構造となっていた。そして、本館西南角の二階部分には見張り小屋のような工作物が取り付けられており、そこから、Dと書かれた白ヘルメットを着用し、サングラスやマスクなどをしたいわゆる闘争スタイルの人物が常時周囲を警戒監視していた。本件当時、本館西側に「A」という看板が掲げられ、その上方には「E」、北館北側には「D」、見張り小屋部分には「D・A死守!」とそれぞれ大書された垂れ幕が下げられていた(なお、本件当日封鎖処分か通告された後、見張り小屋部分に「成田治安法・実力粉砕」、二階北西角小部屋の窓枠下に「天皇制打倒・即位儀式粉砕」という垂れ幕が下げられた。)。

(2) Aは、Cの支援者とCの構成員との交流場所として、あるいはC構成員の寄り合い場所として利用されたことはあったが、主としてDの活動のために利用されてきた。すなわち、Aには、D構成員が多数出入り、宿泊、常駐し、それらの者が援農活動に従事したり、デモや集会に出動する拠点ともなっていた。また、同会館は、様々な情宣活動の基地としても利用され、昭和五九年一一月には、本館一階奥に印刷機が備えられていて、Dの機関紙である日刊「F」及び「G」の原版が押収されたことがあり、後者の発行者である「E」の連絡先として同会館が記載されていた。

(3) Dは、現地農民によって組織されたCと連携し、成田空港の建設を阻止するとの政治的目的を掲げ、これについていわゆる武装闘争方針をとることを宣言しており、昭和六三年初めからだけでも平成元年九月にかけて十数件発生したところの、成田空港に向けてのロケット弾発射事件、千葉県収用委員会会長の襲撃事件、千葉県職員、二期工事関連業者等の住宅、施設等に対する放火事件などのテロ・ゲリラ事件について、革命軍軍報などと題してその機関紙「H」にいわゆる犯行声明を発表し、その都度今後も同様の闘争方針を継続する旨表明した。右テロ・ゲリラ事件のうち、昭和六三年一月一八日に発生した新空港に向けてのロケット弾発射事件については、同年二月八日付けの「H」において、発射地点は成田市fにある栗林で、新空港から七五〇メートルしか離れていないことを明らかにした上、「このことによってわれわれは、三百六十五日いついかなる時や情勢においても成田空港を三六〇度の角度から攻撃できることを証明した」などと声明し、Dが常時同空港の施設自体を攻撃可能であると公言した。また、Dは、平成元年九月一一日付けの「H」において、「三里塚収用法決戦へ」との小見出しのもとに、「われわれは、ゲリラ戦と戦闘的大衆闘争の武装的発展をかけて、八九年秋のL強行を絶対に許さない。」と主張し、同月八日に発生した二期工事関連業者の施設に対する放火事件については、同月二五日付けの「H」において、「革命軍は、ふたたびすべての二期企業に警告する。ただちに工事から手を引け。空港公団とともに、いつまでも農民圧殺の悪行を繰り返すなら、さらに激しいゲリラ戦が二期企業めざして叩きつけられるだろう。」などと宣言した。

(4) 他方、運輸大臣は、Aに対する緊急措置法三条一項一号による使用禁止命令の発動について検討を進め、平成元年九月半ばころ、同条一六項に基づき、警察庁長官に対し、必要な資料の提供と意見の提出を求めた。その結果、間もなく、同長官から、文書によって、資料及び同条一項一号の要件を具備する旨の意見の提出を受けた。右資料によると、Aには昭和六二年八月ころから平成元年八月ころにかけて、三百数十名の者が出入りしており、そのうち氏名の確認できた者が約五〇名ほどいるが、すべてD構成員及びその同調者であること、また、その中にはいわゆる成田闘争の関連で検挙された者か約三〇名含まれていたこと、平成元年八月の時点で、同会館には、D構成員及びその同調者約三〇名が常駐していること、Eができて、その者たちが、空港工事のための道路着工実力阻止とか、工事業者等にゲリラ活動をすると称して、現地での二期実力阻止行動をし、時にA別館において会議をしたり、デモ、集会の出撃拠点として同会館を利用していること、同会館が同派のさまざまな情宣活動の基地として利用されていることなどが記載されていた。

運輸大臣は、独自に収集した資料や新東京国際空港公団(以下「空港公団」という。からの情報を加えて検討した結果、Aには、機関紙等で暴力主義的破壊活動を標榜しているDに所属する者又はその同調者で、新空港の設置、管理等を妨害することに向けられた犯罪行為の前科、前歴を有する者など、緊急措置法にいうところの暴力主義的破壊活動者と認められる者が多数常駐あるいは出入りしており、Aか多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されるおそれかあると判断し、平成元年九月一九日、緊急措置法三条一項一号に基づき、同会館を対象とした使用禁止命令を発し、その旨官報に公告した。

2  以上の状況、すなわちAの所在地、建設経緯、外形・構造、使用状況、成田空港建設反対運動にかかわるDの主張及びその行動内容、その他諸般の状況に照らすと、Aが多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されるおそれがあると判断し、これに対して使用禁止命令を発した運輸大臣の措置に違法な点を見出すことはできない。

3  これに対し、所論は、次のように主張するので、以下、順次検討する。

(一) 使用禁止命令を発出するための要件について(趣意書第三の一の3、最終弁論要旨第三の二ないし四)

(1) 「暴力主義的破壊活動者」という要件について

所論は、緊急措置法三条一項一号によれば、運輸大臣は、規制区域内に所在する建築物その他の工作物について、多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供され、又は供されるおそれがあると認めるときは、当該工作物に対する使用禁止命令を発することができるとされているところ、同法二条二項によれば、暴力主義的破壊活動者とは、「暴力主義的破壊活動等を行い、又は行うおそれかあると認められる者をいう。」とされており、そのままでは暴力主義的破壊活動者の要件は極めて漠然としており、違憲である。したがって、これを合憲的に解釈しようとすれば、暴力主義的破壊活動を行うおそれの認定においては、過去にテロ・ゲリラ活動や火炎びん闘争を行ったことのある者というような、何らかの客観的判断基準が必要である。ところで、本件Aに集合していたのは、原判決の認定によっても、せいぜいDと思われる者が多数出入りしていたという程度であり、これらの者が過去にテロ・ゲリラ活動や他の暴力的活動に関係していたという認定はされていない。現実にもAに集う者は、援農や成田空港反対の集会、デモに参加するために集合していた者及び現地農民らにすぎなかつた。したがって、本件Aは、多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されておらず、また、供されるおそれもなかったのであるから、これについて発出された本件使用禁止命令が法定の要件を具備するとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認及び法令の解釈、適用の誤りがある、と主張する。

所論指摘のように、緊急措置法二条二項によれば、暴力主義的破壊活動者とは、「暴力主義的破壊活動等を行い、又は行うおそれがあると認められる者をいう。」とされているのであるが、その意味は、前記第一の二の1においてみたとおり、「暴力主義的破壊活動を現に行っている者又はこれを行う蓋然性の高い者」と解すべきであり、そのように解すれば、暴力主義的破壊活動者の意義が不明確であるとはいえない。したがって、暴力主義的破壊活動を行うおそれの認定においては、所論のいうような過去にテロ・ゲリラ活動や火炎びん闘争を行ったことのある者といった客観的判断基準が必要であるとは考えられない。暴力主義的破壊活動者に当たるか否かの認定に当たっては、当該人物の平素の活動状況のほか、過去において緊急措置法二条一項に掲げる行為による前科、前歴があるかどうか、暴力主義的破壊活動を主張する団体にかかわりを有するかどうかなど諸般の事情を総合して判断すべきであると解される。前記1の(1)ないし(4)において認定した各事実を総合すると、使用禁止命令発出当時、本件Aに集合していた者らが、暴力主義的破壊活動を行う蓋然性が高いと認定することは相当であって、原判決に事実の誤認ないし法令の解釈、適用の誤りは認められない。

(2) 「多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用」という要件について

所論は、緊急措置法三条一項一号にいう「暴力主義的破壊活動者の集合の用」とは、運輸省航空局飛行場部新東京国際空港課長Iの証言によっても、緊急措置法二条一項にいう暴力主義的破壊活動等、すなわち成田空港の機能確保等を阻害する暴力行為に関連する暴力主義的破壊活動者の集合の用を意味すると限定的に解すべきであるが、原判決は、この点につき、何らの絞りをかけることなく、単に、AにDが多数常駐していたこと及び同派がテロ・ゲリラ活動を機関紙等で自認していたことの二点を認定しただけで、右要件を満たすとしている。しかし、右二点だけではテロ・ゲリラ活動とAとが直接関連しているとはいえず、Aが暴力主義的破壊活動等に関連する集合の用に供されていたという認定は不可能である。したがって、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令解釈の誤りがある、と主張する。

確かに、所論指摘のように、「暴力主義的破壊活動者の集合の用」という場合の「集合」とは、暴力主義的破壊活動者の行う一切の集合を含む趣旨ではなく、暴力主義的破壊活動者が暴力主義的破壊活動等に関連して行う集合を意味すると解すべきである。そして、その判断に当たっては、当該工作物の建設経緯、構造・外見、使用状況、集合している者の暴力主義的破壊活動に関する主義、主張や行動の内容、暴力主義的破壊活動等と当該工作物との関連性などの諸事情を総合して検討する必要がある。前記1の(1)ないし(4)において認定した各事実、とりわけ、(3)で認定したところの、Dが犯行声明を出していたテロ・ゲリラ事件は、まさに緊急措置法二条一項にいう暴力主義的破壊活動であって、同派に所属して主義、主張を同じくする者は右と同様の行動に出る蓋然性が高いと考えられることを総合して考察すると、Aが、多数の暴力主義的破壊活動者によって暴力主義的破壊活動等に関連して集合の用に供される蓋然性が高かったことは優に認定できる。原判決も、その判文の趣旨に徴すれば、これと同様の見解に立つものと認められるのであって、原判決に法令解釈の誤りはない。

(二) Aの使用状況について(趣意書第三の一の4、最終弁論要旨第三の四、五)

(1) Aの建設経緯について

所論は、原判決は、Aは、Dの成田における現地活動拠点として、Dにより建設され、その後Dが闘争方針を強化する過程でそれに近接して逐次、東館、北館及び別館が建設されたと認定したが、Aは、第一義的には、全国のCの支援者とCとの交流場所及びC員らの寄り合い場所として、第二義的には、Jによる援農、集会参加のための宿泊場所として建設されたものであって、その所有者はCであり、管理者は住民運動の活動経験のあるKであった。原判決は、I証言及び警察の資料のみをよりどころとしてその建設経緯を認定しており、Aの建設の経緯をよく知る弁護側証人の証言を一顧だにせず無視したものであって、不当であり、重大な事実誤認をしている、と主張する。

確かに、弁護側証人や弁護人提出の機関紙等によると、Aが、Cの支援者とCとの交流場所として、あるいはC員らの寄り合い場所として、さらには、Dの構成員又はその同調者らが援農又は集会に参加するための宿泊場所として利用されたことのあったことは認められるが、弁護側証人の証言と対比しても、前記1の(1)で認定したAの構造、垂れ幕とその内容を含む外観、Dがその機関紙の中でAを「わがDのg現地での最大拠点」と記述していること、本件封鎖、除去の処分時、最後までAに残って抵抗したのは、Dに所属する被告人ら四名のみであつたことを総合すると、Aの建設経緯に関するI証言や警察の資料に信用性がないとは認められない。これらの証拠を含む関係証拠によれば、Aは、前記1の(2)で認定したとおり、Dが新空港反対闘争の現地活動拠点とするために建設し、その後同派が主としてこの目的のために引き続き利用してきたものと認めるのが相当であって、原判決の認定に誤りは認められない。

(2) Aの立地条件について

所論は、原判決は、Aの立地条件について、「B電鉄株式会社成田空港駅の南方約四・六キロメートルに位置し(新東京国際空港は右成田空港駅とAの間に位置する。)」と認定するだけであるが、これが、なぜ緊急措置法三条一項一号の要件を判断するための一事実として位置づけられるのか理解できない。もし、原判決が、Aが成田空港に近接していることから、テロ・ゲリラ活動の出撃基地となるおそれがあるとても考えたのであれば、そのような何の証拠にも基づかない認定は証拠裁判主義の大原則に違反する。そもそも、人目につきやすく、警察機動隊の監視の目が容易に届きやすい本件Aをテロ・ゲリラ活動の出撃根拠地にすることなど全く考えられないのは、その立地条件からみても明らかなところである。そうすると、立地条件をもってAが暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されるおそれがあるかのごとく認定した原判決は不当である、と主張する。

しかしながら、原判決がAの所在地について所論指摘のように認定したのは、その所在地番と併せてAの存在する位置を関係施設との関係で明白にすることにより、Aが緊急措置法二条三項に定める規制区域内に存在することを指摘し、あわせてA設置の趣旨目的を示す一つの事情とする趣旨であると考えられる。所論は、原判決が考えていないと思われることを前提に論旨を展開するもので、採用の限りでない。

(3) Aの外形・構造について

所論は、原判決は、本件Aの外形・構造について、「本館、東館、北館及び別館のいずれも軽量鉄骨プレハブ造り二階建で、周囲を高い鉄板塀で囲み、鉄板塀の上に有刺鉄線を張り巡らし、本館西南角の二階部分に監視小屋を設け……出入口は一か所しかなく、一般人が容易に出入りできない構造のもの」などと認定しているが、本館等の建物自体は、プレハブ造りの簡易かつ取壊しの容易な建物であって何ら要塞的なところはない、また、原判示のようなAの警戒態勢は、長年にわたる政府、運輸省、公団、機動隊の暴力的弾圧を受けてきた者にとっては、空港推進派の出入りを防ぐのは当然のことであって、これをもって「暴力主義的破壊活動」を推認する根拠とすることはできない。また、Aには成田空港に反対する者は誰でも出入りできたのてあって、一般人が容易に出入りできない構造などということもできない。右外形・構造をもって、暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されるおそれがあると認定した原判決には、甚だしい事実の誤認がある、と主張する。

しかし、証拠によつて認められるAの外形・構造は、前記1の(1)に認定したとおりで、明らかに異様であって、Aと呼ぶに相応しい外観を呈している。Aの使用目的を推認するに当たり、このような建物の外形・構造をも一資料とすることは合理的であって、この趣旨に沿った原判決の認定に事実の誤認は認められない。

(4) Dが現地闘争の拠点として使用していたことについて

所論は、原判決は、Aが「一貫して主としてDの活動のために用いられてきた」と認定し、その内容として「援農活に従事したり、デモや集会の出動拠点としていたほか、さまざまな情宣活動の基地としても利用」していたと認定しているが、このような使用状況から、「暴力主義的破壊活動者の集合の用」に供されるおそれを認定することは許されない。しかも、Aは、当初の建設の趣旨を一貫して堅持し、全国の住民運動等との交流センターとして、またC農民の寄り合い場所としての役割を果たしてきたのであって、一〇年以上前に交流の場となったり披露宴か行われたにすきないなどと矮小化した認定をした原判決は、重大な事実の誤認をしている、と主張する。

しかし、Aが住民運動との交流センターやC農民の寄り合い場所などとして利用された事実と、Dが同会館をその活動のために利用してきた事実とは、必ずしも矛盾する関係にあるわけではない。前記(1)でみたとおり、Aは一貫して主としてDの活動のために用いられてきたものと認めるのが相当である。原判決が右の事実をAについて暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されるおそれを認定する一つの事情として考慮したことに誤りがあるとは認められない。

(5) Dが、成田闘争に関連してテロ・ゲリラ活動を展開してきたことについて

所論は、Dがその機関紙においてテロ・ゲリラ活動を自認したことは事実であるが、これらの活動は、独立した実践部隊によって敢行されていることが、機関紙の文面上明らかである。仮に、AかDの現地活動の拠点であるとしても、Aが暴力主義的破壊活動に関連して暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されている(ないしはそのおそれがある)と認定するためには、少なくとも、これら実践部隊の人間がAを基地にしているという客観的証拠が必要であり、このような証拠が何もないのにAが暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されていると認定することは許されず、原判決は、重大な事実の誤認をしている、と主張する。

しかし、Aが暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されていると認定するためには、所論のいうように、テロ・ゲリラ活動の実践部隊がAを基地にしているという客観的証拠が必要であるとは考えられない。前記1の(3)で認定した事実によれば、Dがテロ・ゲリラ活動を行っていることを自認し、これを更に推進しようとしていることは明らかであるから、同派に所属して主義、主張を同じくする者が、右と同様の行動に出る蓋然性が高いと考えることは何ら不合理ではない。そうすると、Dがその機関紙においてテロ・ゲリラ活動を自認していたことをもう一つの事情として、Aが暴力主義的破壊活動者の集合の用に供される蓋然性が高いと認定した原判決に誤りはない。

(三) 使用禁止命令の伝達方法に関する違法について(趣意書第三の一の5)

所論は、本件において、運輸大臣は、緊急措置法三条二項に基づき、使用禁止命令の伝達について公告の方法によったが、同条一項本文によれば、使用禁止命令を伝達されるべき者は、「当該工作物の所有者、管理者又は占有者」であり、同条二項による公告の方法が許されるのは、運輸大臣が当該禁止を命せられるべき者を「確知することができないとき」、又は「当該命令を伝達することができないとき」に限られる。I証言によれば、運輸大臣は、Aが未登記で、所有者を確知することができなかったから、公告の方法によったとするが、運輸大臣は、Aの管理者がKであることを十分確知していたはずであるし、そうでなくても、Dが占有していることの認識はあつたのであるから、占有者を確知していたことは明らかである。したがって、本件において運輸大臣がした公告の方法による使用禁止命令の伝達は違法であり、この点を何ら判断していない原判決には、本件公務執行妨害罪の構成要件たる職務の適法性について理由不備がある、と主張する。

建物の権利関係を調査する場合、建物登記簿を調査するのが最も容易でかつ確実な方法であり、これに次ぐものとしては建築確認申請書を調査するのが一般であるところ、関係証拠によれば、本件Aについては、保存登記はなされておらず、また建築確認申請書の提出もなされていなかったことが認められる。I証言によれば、緊急措置法は確知しろと書いているので、建築確認申請書と登記簿の調査で足りると考えた、仮に土地所有者から何らかのことを聞けたとしても、それが真実の所有者であることを確知できないと思った、所有者が不明なので、管理者も分からないと考えた、通常の方法で確知できなければ、公告という確実な方法をとるのが法律の趣旨と思ったというのであるが、同法三条二項の解釈としても妥当であると考えられる。したがって、登記簿等を調査する以上の調査をすることなく、所有者、管理者、占有者を確知し得ないとして、公告により使用禁止を命令した運輸大臣の措置が違法であったとはいえない。結論として本件公務の適法性を認めている原判決が、この点に関する判断まで示していないからといって、理由不備かあるとはいえない。

その他、所論に即し逐一検討しても、原判決に法令の解釈、適用の誤り、事実誤認は認められない。論旨は理由がない。

二  本件封鎖、除去処分の違法性について(趣意書第三の二及び三、最終弁論要旨第四)

論旨は、本件封鎖、除去処分は緊急措置法三条六項、八項所定の要件を充足しないままなされたものであるから、これらを適法と認めた原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の解釈、適用の誤り、事実誤認かある、というものである。

1  原判決挙示の証拠及び当審における事実取調べの結果によると、本件封鎖、除去処分に関して、以下の事実が認められる。

(1) Dは、Aに対する使用禁止命令が発動されたことに反発し、デモ、集会や機関紙上において、団結小屋死守や二期工事実力阻止を叫び、平成元年一〇月二日付け「H」においては、「七一年の激闘が一期開港を七年も遅らせ、二期にいたっては、十八年たってもできない現実を強制した。このようなたたかいを、今、成田治安法適用を完膚なきまでに打ち砕くことで改めで実現する決意を固めようではないか。」「日帝・警察、運輸省・空港公団よ、お前たちが団結小屋の封鎖や強制撤去の攻撃を具体的に発動してくるならば、われわれは無制限・無制約の革命的武装闘争をとことん爆発させるたろう。」、平成二年七月一三日付けの「日刊F」においては、「Aをはしめとする団結小屋を実力で守り抜き、敵の攻撃を数倍する報復のゲリラ戦争を成田空港と支配階級総体にたたきつけなければならない。今秋天皇即位儀式粉砕、L決戦勝利へ進撃しよう。」などと宣言し、以後この方針にそって、武装闘争方針を一層強化した。そして、Dは、平成元年一一月から翌年五月にかけて、千葉県職員、運輸省職員、航空会社役員、二期工事関連業者の住宅や警察の施設等に対する放火事件等を敢行した旨の犯行声明を発表した。

(2) Aには、使用禁止命令発出後も、D構成員らが多数常駐、出入りし、同会館を拠点として、それらの者か武装闘争方針を喧伝する集会に多数参加し、さらには、新空港の建設及び二期工事に反対し、これを実力で阻止しようとする他の会派と連携し、活発なデモ行進等の活動を行っていた。

(3) このような事態を前にして、運輸大臣は、Aが、使用禁止命令に違反し、依然として多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されていると認識し、Aに対する緊急措置法三条六項に基づく封鎖処分を行う必要性について検討を進め、平成二年八月半ばころ、警察庁長官に対し、必要な資料の提供と意見の提出を求めた。また、これより先、通称M及びNに対する封鎖処分等をした際のDの抵抗行動にかんがみ、封鎖処分に際して火炎びんや石等の投てきがなされることにより、封鎖作業が進められず、緊急措置法三条八項の要件を具備するという事態に至ることも考慮し、併せて、除去処分をするについての資料の提供と意見の提出も求めた。警察庁長官は、間もなく、封鎖処分について、Aの使用状況等に関する資料を提供し、緊急措置法三条六項の要件を満たす旨の意見を文書で提出し、除去処分については、千葉県警察本部長に対し資料の提供と意見の提出を求めるよう回答した。封鎖処分に関する資料には、平成元年九月から平成二年八月にかけて発生したテロ・ゲリラ事件は総数約三〇件に及ぶが、これらの事件についてDが犯行を自認していたこと、Aの使用状況については、使用禁止命令発動後である平成元年九月から平成二年八月にかけて、氏名の判明したD構成員ないしその同調者が約四〇名ほど出入りしたことが確認され、その中にいわゆる成田闘争に関連する検挙歴のある者が約二〇名含まれていたこと、Aを出た一団が年二回開催されるO系の全国集会に参加し、同集会において団結小屋死守、機動隊繊滅、空港廃港などを主張する事態が見受けられたこと、Dでは、このころ、二期工事に反対し、これを実力で阻止しようとする他の組織と連携し、二期工事実力阻止、成田治安法粉砕、無制限、無制約のテロ・ゲリラを行うなどの主張を繰り返していたか、Aにいる者がその種デモ活動に参加することも約二〇回くらい確認されたことなどが記載されていた。

運輸大臣においては、独自に集めた情報などを加えて検討した結果、D構成員が、使用禁止命令発出後も依然としてAに出入りし、Aを拠点として暴力主義的破壊活動を主張する集会、デモなどに多数回参加していること、Dが団結小屋を死守すると称し、報復として無制約のテロ・ゲリラを成田空港や支配階級に加えるといった主張を繰り返し、これに関連してテロ・ゲリラを行っていると認識したことなどから、Aが使用禁止命令に違反して多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されていると判断して、同会館の封鎖処分を実施することを決定した。そして、緊急措置法六条に基づき、平成二年八月二一日付けで空港公団総裁に対し封鎖の措置を実施するよう命じるとともに、運輸大臣名で警察庁長官に対し、運輸省航空局長名で千葉県警察本部長に対し、それぞれ警備依頼を行った。

(4) 同月二二日、緊急措置法七条一項の指定職員としてIを長とする五名の運輸省職員がA本館付近に臨場した。同日午前六時一三分ころ、Iは、P補佐官を介し、拡声器及び横断幕を用い、被告人らに対し、Aについて封鎖処分を行う旨の通告をするとともに、同法三条一〇項に基づき、同会館から退去するように命じた。その後、同日午前六時四三分ころ、拡声器を用いて再び同様の通告をするとともに退去を命じ、かつ、そのころから空港公団職員らに封鎖処分に必要な整地作業や塀の撤去作業を開始させた。そして、塀の撤去作業中である同日午前七時五分過ぎころにも、さらに拡声器を用いて同様の通告を行うとともに退去を命じた。

(5) 被告人Qは、昭和六〇年一一月公務執行妨害罪等により起訴猶予処分に付された前歴を有し、被告人Rは、Sにおいて書記次長の地位にあり、昭和六〇年八月公務執行妨害罪により、同年一一月公務執行妨害罪等により、昭和六二年五月兇器準備集合罪により、同年七月公務執行妨害罪により、いずれも起訴猶予処分に付された前歴を有し、被告人Tは、昭和六〇年三月公務執行妨害罪等により起訴猶予処分に付された前歴を有するもので、この種の前歴のない被告人UともどもDの中心的活動家であった。そして、八月二二日には、いわゆる死守隊としてAに立てこもっていた。また、本館二階の北西角に設けられた小部屋は、その二面がコンクリートの塊などの入った厚い木製の壁で防護されており、右小部屋及びその周辺にはガラスびん、ブロック片等の投てきに用い得る兇器が多量に備蓄されていたほか、バット、バール、鉄パイプ等の兇器も多数用意されていた。被告人らは、退去命令に従わず、「A死守態勢に突入する。」などと拡声器て叫んでいたが、同日午前六時四七分ころから、前記小部屋の小窓から封鎖処分等の職務を実施中の運輸省及び空港公団の職員、警戒警備の警察官並びに作業中の補助作業員及びそれらの者が乗車した車両等に向けて、こもごも、多数のガラスびん、ブロック片等を投てきし、「ダンプの運転手、重機の運転手、よく聞け。我々は徹底的にお前たちに報復を叩きつける。」などと拡声器で叫ぶなどしたため、封鎖処分を続けることが困難となった。

(6) そこで、Iは、上司と協議し、Aについて除去処分を実施する場合の求意見先として警察庁長官から指示されていた千葉県警察本部長に対し、同本部公安一課長を介して口頭で資料の提供及び意見の提出を求めた。同本部長からは、AにはDと認められる被告人らが立てこもり、同日午前七時くらいまでの間にガラスびん一〇〇本近くや煉瓦大のブロック片が投てきされている旨の口頭による資料の提供と、結論として除去処分の要件を具備すると思料する旨の口頭による意見の提出があった。以上の状況をもとに、運輸大臣においては、Dが、使用禁止命令発出後も、引き続き武装闘争を推進すると喧伝している上、Dと認められる被告人らがAに立てこもり、現に多数のガラスびん等を投てきするなどの暴力主義的破壊活動等に及んでおり、Aが今後とも暴力主義的破壊活動等に供されるおそれが著しく、封鎖作業を進めることは極めて困難で、除去処分以外の方法では使用禁止命令の履行を確保することができず、このままDの闘争拠点である同会館を放置するときは、空港の設置、管理の妨害に向けられたテロ・ゲリラ活動が引き続き行われるおそれが著しく、緊急措置法一条所定の目的を達成するためには、同会館を除去する必要が特に認められると判断し、直ちに除去処分を実施することを決定し、前記Iに対し、その旨命じた。これを受けてIは、P補佐官を介して、同日午前七時三五分ころ、拡声器及び横断幕を用いて、被告人らに対し除去処分を実施する旨通告するとともに、Aからの退去を命じた。そして、同日午前七時五四分ころから、空港公団職員らがAの除去作業を開始し、その作業中の同日午後一時三分ころ、さらに同様の通告とともに退去を命じた。

(7) 被告人らは、「機動隊を殲滅する。」などと拡声器で叫びながら、ガラスびんや煉瓦大のブロック片を投てきするなどして激しく抵抗したが、同日午後二時一七分から二〇分にかけて、公務執行妨害罪及び兇器準備集合罪の現行犯の容疑で相次いで逮捕された。

2  以上の状況、すなわち使用禁止命令発出後のDのこれに対する対応やAのその後の使用状況等に照らすと、運輸大臣がAについて封鎖処分をしたことに違法はなく、さらに、被告人四名が退去命令に従わず、かえって封鎖処分に対して実力による抵抗をした状況等に照らし、運輸大臣が封鎖処分によっては使用禁止命令の履行確保ができないとして除去処分に切り換えたことにも、違法な点を見出すことはできない。

3  これに対し、所論は、次のように主張するので、以下、順次検討する。

(一) 本件封鎖処分の違法性について(趣意書第三の二、最終弁論要旨第四の一)

(1) 封鎖処分をするための要件を欠くことについて

所論は、本件封鎖処分は、Aに対する違法な使用禁止命令に引き続いて出されたものであるが、使用禁止命令以後も、Aの使用状況に変化がなかった以上、封鎖処分をすべき要件事実は存在しない。原判決は、「1」DがAに対する使用禁止命令に反発して機関紙等で弾劾声明を出したこと、「2」使用禁止命令発出後、数件のゲリラ活動が発生したこと、「3」Aの使用状況が、D所属の者らが多数出入りし、情宣活動を行うなど使用禁止命令発出以前と全く変わらなかったことなどを根拠として、封鎖処分発出の要件があると判断したが、「1」については、正当な言論活動であり、「2」については、独立した実践部隊の行ったことである上、Aを拠点にしてこれらの活動が行われたとの証拠は提出されていないし、そもそも使用禁止命令以前からゲリラ活動は行われていたのであるから、Aの客観的使用状況に変化はないのであり、「3」については、原判決自らAの使用状況に変化はないとしているのであるから、封鎖処分を正当化することはできない。したがって、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令解釈の誤りがある、と主張する。

しかしながら、使用禁止命令を発出したことに違法な点のないことは、既に前記一において説示したところであって、これを違法とする前提に立つ所論は、その前提を欠く。Aについては、その使用が禁止されているにもかかわらず、多数のD構成員ないしその同調者が常駐又は出入りし、Dでは、使用禁止命令以後に発生した放火事件等について、使用禁止命令に対する報復行動として敢行した旨主張しており、成田空港建設実力阻止を呼号する集会、デモ等にA内から多数の参加者を出しているなど、前記1の(1)ないし(3)において認定した事実が認められるのであり、これらの諸事情にかんがみると、運輸大臣において、Aが使用禁止命令に違反して現に暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されていると判定したのが違法であるとはいえない。原判決は、Aの使用状況が使用禁止命令発出後も全く変わっていないなどとは述べていないのであって、むしろ、使用禁止命令の発出という重要な事情の変化があったのにもかかわらず、あるいはそれが発出されたことに対して、前記のような事情が認められるから、運輸大臣においてAが現に暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されていると判断したことに誤りはないとしたものと解される。原判決に所論のいうような法令解釈の誤りはない。

(2) 封鎖処分下におけるAに対する破壊行為の違法性について

所論は、原審で取り調べられた証拠によると、除去処分に移行する以前の単に封鎖処分の段階において、公団職員らが、ニプラ、ユンボ等の重機の爪でAの外壁を破壊したり、外壁の垂れ幕を引きちぎったりしていることが認められるが、封鎖処分は、当該建物を破壊することなく使用不能の状態にする処分であるから、封鎖処分の段階で公団がAの建物自体を破壊したのは、刑法上の犯罪を構成する行為であって、公団職員らの右行為が違法であることは明らかであり、この点の判断を怠って被告人らを有罪とした原判決は破棄を免れない、と主張する。

確かに、関係証拠特に検察官請求のビデオテープ一巻(甲一号証)によると、除去処分が通告される以前である本件当日の午前七時ころ、A二階北西角の小部屋から垂れ下がっていた垂れ幕がニプラの爪に掴まれて北館の屋根に乗せられ、幕の下の部分が引きちぎられ、また同日午前七時五分ころ、同じニプラによってA西側壁面に掲げられていた「A」という看板の一部と外壁のごく一部が損壊された事実が認められる。しかしながら、関係証拠特にV、Wの各証言によると、空港公団側が本件封鎖の方法として予定していたのは、Aの壁に沿ってパイプで骨組みを作り、そこにパネル状にした鉄板を取り付けるというものであり、この方法は相当と認められる。そうすると、本館西側部分についていえば、会館の外柵とそれに附属する工作物及び外柵と本館との間にある屋根様のものを撤去することは、緊急措置法三条九項により許容される必要な処分の範囲内にあると考えられる。そして、関係証拠特に前記ビデオテープを精査すると、前記垂れ幕の引きちぎりは、垂れ幕が屋根様の物の上に垂れかかっていたため屋根様の物を掴む際これと一緒に掴んだ結果生じたものであり、前記看板や建物の損壊も、同じく屋根様の物を取り除く際にやむを得ず生じたものと認められ、それらが、封鎖処分の執行と関係なく、意図的に行われた形跡は認められない。したがって、空港公団職員らが封鎖処分として許容される範囲を超えて除去処分に相当するような違法な作業をしたものとは認め難い。

(3) 別館に対する封鎖処分の違法性について

所論は、原判決は、別館がAと一体性を有するという理由で、別館に対しても封鎖処分をかけた後、除去処分に移行したことを適法であるとしている。しかし、別館は、Aの他の棟と敷地の所有者を異にし、距離的にも数十メートル離れているのであるから、本館とは相対的独立性が認められ、かつ、別館からの抵抗行動はなかったのであるから、別館について当初の予定どおり封鎖処分を行うことは容易であったはずであり、別館に対してまでも封鎖処分に止まらず除去処分までしたのは、当初からA全体の破壊を企図していたからとしか考えられず、これは、封鎖処分の本来の趣旨を没却せしめるもので、極めて強い違法性を帯びる、と主張する。

しかしながら、関係証拠によれば、運輸大臣において、万一の事態として除去処分に移行することもあり得ることを考慮の中に入れていたことは明らかであるが、I証言及びVの証言によれば、除去処分を行う場合には必要がない封鎖処分用の鉄板等の資材を現に調達し、空港内の資材置場に搬送して作業員ともども待機させていたというのであるから、本件当日は、当面封鎖処分のみを実施する予定で作業に着手したものと認めるのが相当である。したがって、当初からA全体を破壊する企図であったとする所論は、証拠に基づかない主張というほかない。また、関係証拠によれば、A別館は、前記のとおり、本館が手狭になったことからこれと同一の目的のもとに建築され、以来、使用禁止命令発動の前後を問わず、本館と一体として使用が続けられてきたものであることが認められるのであって、本館との機能的一体性は強固であることが認められる。そうすると、別館を本館と一体の建物と取り扱い、使用禁止の対象とした上、その後の事情にかんがみ、本館とともに封鎖、除去処分の対象としたからといって何ら違法とはいえない。

(二) 本件除去処分の違法性について(趣意書第三の三、最終弁論要旨第四の二)

所論は、本件Aに対する除去処分は、緊急措置法三条八項の定める除去処分の要件すなわち「1」第一項の禁止命令に係る工作物が当該命令に違反して同項各号に掲げる用に供されている場合において、「2」当該工作物の現在又は既往の使用状況、周辺の状況その他諸般の状況から判断して、暴力主義的破壊活動等にかかわるおそれが著しいと認められ、「3」他の手段によっては、同項の禁止命令の履行を確保することができないと認められるときであって、「4」第一条の目的を達するため特に必要があると認められるとき、との要件を欠いている。除去処分は、権利侵害性が極めて強い処分であるから、これらの要件については特に慎重な検討が必要であり、真にやむを得ないと認められる事情が存するときに限って認められるべきてある。ところで、「1」については、Aが現に暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されていたとは認められないし、被告人らが除去処分に抗議する行動をしたからといって、その用に供されているといえないことも明らかである。「2」については、「暴力主義的破壊活動等にかかわるおそれが著しい」とは、緊急措置法二条一項一号ないし一一号に定める行為が当該工作物内においてなされる蓋然性が極めて高いことを意味する。封鎖処分後に至ってにわかに暴力主義的破壊活動にかかわる著しいおそれが生じたとはいえない。「3」については、封鎖処分においても、退去命令を発することは可能であり、これに抵抗すれば、公務執行妨害罪で被告人らを逮捕することができるのであるから、封鎖処分を完成することはできるのであり、そうしないで封鎖処分から除去処分に切り換えたのは、当初からAの破壊を狙ったものとしか考えられない、「4」については、Aが封鎖処分からわずか一時間後に突如成田空港の機能の確保や航空機の航行の安全に資するという目的のために邪魔になったものということは到底あり得ず、従来からもその阻害要因とはなっていない。したがって、被告人らが、Aに立てこもり、実力による抵抗(それも、コーラ瓶等の投てき程度の)をしたという点のみをもって、同項の定める要件を満たすという杜撰な認定をした原判決は違法である、と主張する。

しかしながら、所論が除去処分について慎重に検討すべきであるとする点はそのとおりであるとしても、前記1の(1)ないし(4)で認定した事実に加えて、同(5)、(6)で認定した封鎖処分開始後の一連の状況に照らすと、運輸大臣が除去処分の要件を満たすと認めたことは相当であつて、これを是認した原判決に誤りは認められない。

ます、「1」の要件が充足されていることについては、既に前記(一)の(1)でみたとおりである。被告人らが除去処分に抗議する行動をしたからといって、Aが暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されていたといえないことは所論のいうとおりであるが、Dに属する複数の者が同会館に立てこもっていたことは、同会館が暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されていたことに関し、前記(一)の(1)でみた事情に、新たな事実を付け加えるものである。

「2」 の要件についてみると、原判決も、「暴力主義的破壊活動等にかかわるおそれ」が封鎖処分が出された後ごく短時間の間に生じたものとしているわけではないし、また、その「おそれが著しい」とは、所論のいうように、緊急措置法二条一項一号ないし一一号に定める行為が当該工作物内においてなされる蓋然性が極めて高いことを意味するとは考えられない。Aの現在及び既往の使用状況については、前記一の3(二)の(1)、(4)及び前記1の(2)でみたとおりである。

そして、「周辺の状況その他諸般の事情」として本件て最も重要なものは、Dが、Aの使用禁止命令に反発して、あるいは従来からの武装闘争路線を更に推進するとして、ゲリラ活動を行っていることを自認し、かつ、犯行声明に対応する事件が現に発生していることである。これらの事情及び前記一の3(二)の(5)で考察した点を総合して判断すれば、(2)の要件を認めるに十分である。

「3」 の要件についてみるに、「他の手段」としては、封鎖処分や退去命令などが考えられるが、本件においては、被告人らが封鎖処分の通告を受けたのにもかかわらず、Aに立てこもり、実力による抵抗をし、退去命令にも応じなかったのである。これらの事実からすると、「3」の要件が満たされていることも明らかである。封鎖処分を完成するには被告人らを逮捕すればよいとの所論は、本末転倒の議論であって、封鎖処分に抵抗する被告人らを公務執行妨害罪等で逮捕するかどうかは、現地に臨んだ司法警察の職務を担う警察官が、逮捕者及び被逮捕者の安全をも考慮した上、独自に決定すべきことであり、行政機関において、被告人らによる激しい抵抗を前に、封鎖処分を続行するかそれとも除去処分に移行するかについて検討することがこれと直接の関係のないことは、改めていうまでもないことである。

最後に「4」の要件についてみるに、使用禁止命令が一年近くにわたって無視され、封鎖処分も実力による抵抗にあって実施できない状況の中で、現に多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供され、暴力主義的破壊活動等にかかわるおそれの著しいAを除去することは、緊急措置法一条の目的を達成するため特に必要があると認められるときに当たると解され、本件除去処分が発せられる時点においては、「4」の要件も充足されていたと認めることができる。

その他、所論に即し逐一検討しても、原判決に法令の解釈、適用の誤り、事実誤認は認められない。論旨は理由がない。

第三  弁護人の控訴趣意のうち、兇器準備集合罪についての違法性阻却を主張する論旨について(趣意書第四)

論旨は、原判決は、原判示第一として兇器準備集合罪を認定したが、兇器準備集合罪は、公務執行妨害罪の予備的行為を一つの犯罪類型とするもので、予備罪としての性格をもつから、本体たる公務執行妨害罪が犯罪を構成しないとすれば、その予備行為を独立に処罰する必要はなく、違法性を阻却されると考えるべきである、したがって、本件について、兇器準備集合罪の成立を認めた原判決は、法令の適用を誤ったものである、というのである。

しかしながら、本件公務は適法であり、被告人四名には公務執行妨害罪が成立することは、これまで述べてきたところがら明らかであって、所論はその前提を欠き、失当である。その他本件において、被告人らの行為の違法性を阻却する事情は見当たらない。

第四  被告人本人の各控訴趣意について

被告人Qの控訴趣意は、新空港建設に対する反対運動の経緯、空港の危険性、A破壊の政治的背景について述べ、被告人Uの控訴趣意は、本件封鎖、除去処分に対する抵抗行動の正当性、A破壊の政治的背景について述べ、被告人Rの控訴趣意は、緊急措置法の治安法としての性格について述べ、被告人Tの控訴趣意は、Aの建設経緯、外形・構造、使用形態と実力闘争、武装闘争の不可避性、必要性に関する原判決の事実誤認を主張している。

このうち、新空港建設反対運動の経緯、空港の危険性、A破壊の政治的背景、緊急措置法の治安法としての性格、実力闘争、武装闘争の不可避性、必要性に関する原判決の事実誤認に関する主張は、結局のところ、被告人らの本件行為の正当性を主張する趣旨と解されるので、被告人Uの本件封鎖、除去処分に対する抵抗行動の正当性に関する所論とともに検討するに、証拠から認められる本件の経緯、当日の被告人らの行動状況等に照らし、被告人らの行為が正当であるとは認められない。

また、被告人TのA建設の経緯、外形・構造、使用形態に関する所論については、既に前記第二で当裁判所の判断を示したところである。所論はいずれも採用できない。

第五  結論

よって、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項本文、一八二条により被告人四名に連帯して負担させることとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤文哉 裁判官 金山薫 裁判官 若原正樹)

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